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PMI REP

バイオテック企業のプロジェクトマネージメント
第49回エンパワーメントセミナー講師
金島秀人、医師、医学博士
東京大学シリコンバレーオフィス、代表


 私が米国のバイオテック企業(研究、開発型)で経験したプロジェクトマネージメントを紹介したい。会社のシニアマネージメントにとって、どのプロジェクトに年間どれほどの予算を使っているのか、また外部の会社との合弁事業の際、例えば50%の予算を折半するなど、常に明確な区分けが必要なため、プロジェクト番号をつけて、すべて縦割りで予算管理をする。例えば、私のグループは10人だとすると、凡そ年間予算$200,000 X 10=$2,000,000くらいの年間コストとなるが、この中には、建物、施設、光熱費、実験機器の減価償却や中央管理部(人事、会計など)の会社全体での出費すべての運営コストの頭割り(10人分)が入ったものである。最大の出費は当然ながら人件費(給与、保険等、平均一人当たり月$8,000)であり、大きく変動するものではないが、私のグループに例えばA、B, Cと3個のプロジェクトがある場合、それぞれが間違いなく分配(ある研究者は50%30%20%でそれぞれのプロジェクトに関与している)されているかチェックする必要がある。

 毎月実験を進める上で消費される研究材料費は一人当たり月$2000くらいなもので、人件費に比べれば、小さい額である。つまりあるプロジェクトの大小を言う場合、人を何人つぎ込んでいるかが、もっとも重要な指標となり、1 FTE (full time employee)の数で把握され、予規模は1 FTE あたり年2500万円くらいである。したがってこの事実が厳密なパフォーマンス評価と人事管理の重要性の伏線となっているのである。だから、実験に必用な緩衝液などは作らせるよりどんどん購入するし、実験用の特殊な試薬でも少々無駄がでても買えばよいし、なければ、外注で依頼作製した方が安いのである。余談だが、研究費のなかで最も高くつくのが、動物実験費用であり、とくに実験の期間が長く、ネズミを長期に観察せねばならない場合がもっとも高価である。なぜなら、ネズミの購入費よりも、社内の動物実験管理部門(コストセンター化されている)から一日単位でチャージされる維持費のほうが10日も経過すれば高いからである。要は、実験のペースを最大限に上げて、プロジェクトの短期的到達点であるマイルストーン(そのプロジェクトを続けるか、変更するか、やめるかを判断できる分節点)に至ることが重要で、それが結果的に研究部のゴール(例えば製品化のめどが立つ)であれば、会社全体の開発プロジェクトとして格上げされるし、そうでなければ、アプローチの変更、あるいはプロジェクトの停止となる。会社全体にとっては、研究開発事業内容のパイプラインが、大きなギャップがなく連続していることが重要で、そのためにプロジェクトの取捨選択(つまりプロジェクトマネージメント)が不可欠である。

 全ての出費はプロジェクト番号ごとに計算され、毎月エクセルシートなどでグループリーダーとマネージメントに報告される。このような経費とプロジェクト一体型のシステムはバイオテック企業が複数のスポンサーと同時進行でプロジェクトを進めてゆくために必用なものとして採用されていると思われる。また内部で毎年更新されるプロジェクトの入れ替え、重要度の変更など、機敏な変化に対応するためにも、うまく働くシステムだと思う。研究グループ内では、会社全体で進めている主要なプロジェクト(例えば、5人分)、それに続くプロジェクト(3人分)、そして、うまくゆくかどうか不明だが、試みにトライする初期プロジェクト(2人分)、というように、お互いに関連はしているが、成熟段階がことなる複数のプロジェクトを同時に進めることが通常である。プロジェクトの大小を問わず、リーダーは毎年の研究到達予想とマイルストーンの設定、月単位での進行状況をモニターし、グループ全体で討議し、皆で納得しつつ(理想的には)進めるのが通常である。勿論、グループリーダーの結論に対しては、シニアマネージメントからのフィードバック、時には、経営上の判断から、まったく異なる結論になることもある。
このように、プロジェクトの進行をある程度定量化できる基盤が明確であり、かつそれをチームメンバー全員が情報として共有できることがプロジェクトマネージメントには必須であろう。


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