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要旨
製品の品質を確保するためには業務の品質が大切であるといわれている。しかし後者の本質は明らかにされていない。品質展開(Quality
Deployment)は製品自体の「品質のネットワーク」であり、狭義のQFD(Quality
Function Deployment)はその品質を形成する「業務品質のネットワーク」である。1994年以前のISO9000は後者の範疇に入るものであるが、十分の認識がなされていない。8-th
ICITでは以上の考え方から「経営の品質」について報告した。今回はもっと一般的にProduct
Quality とWork Quality の基本的概念を明らかにしようとするものである。
1.製品の品質と品質システム
「製品の品質」については古くから多くの議論がなされているが、代表的な定義はジュランのfitness
for use(使用に対する適合)である。「業務の品質」については観念的な議論は多くなされてきたが、その本質は明らかにされていない。本論文では、前者が品質展開(Quality
Deployment)、後者が狭義QFD(Quality Function Deployment)に対応するものとして論ずる。品質機能展開(QFD)は、品質展開(Quality
Deployment: QD)と狭義のQFDからなる[1-3]。「QD」は製品自体の「品質のネットワーク」そして「狭義のQFD」である業務機能展開はその品質を形成する「業務品質のネットワーク」のそれぞれの構築を目指している。この概念を図1に示す(以前の論文[4-7]と一部変更されている)。
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▲図1 製品の品質と業務の質
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筆者がQFDを米国に紹介したのは1983年で、それ以来世界的に普及しているが、「QD」に比べ「狭義のQFD」は後者の範疇に入るものであるが、その重要性は十分認識されていない。後者は水野滋によって「品質を形成する職能ないし業務を目的・手段の系列で、ステップ別に細部し展開していくこと」と定義されたものである[1]。赤尾は一言でいえば「品質保証(QA)に関する業務機能展開」としており、具体的には「品質保証の基本機能をさらに業務機能展開すること」としている[4]。
歴史的にTQCの提案者であるファイゲンバウムは品質システムについて次のような定義をしている。品質システム(Quality System)とは、 “The quality system is the network of administrative and technical procedures required to produce and deliver a product of specified quality standards” (指定された品質標準を持つ製品を生産し、引き渡すために必要な管理および手順(procedure)のネットワーク」である)[5]。これがISО9000の原点であったと考えられる。またそれは狭義のQFDにおける「業務品質のネットワーク」そのものに他ならない。
1994年以前のISO9000は「良い仕組み・プロセスからよいアウトプットが創出される」という概念に基づいており、狭義のQFDがこれに対応していることを意味する。既に通信建設企業でケーススタデイを行い、ISOとQFD(QDと狭義のQFD)を結合することにより、out
put の品質を直接確保しうる品質システムが構築されることを示している[6-9]。
2.製品の品質
品質展開(Quality Deployment:QDと略称) は「ユーザーの要求を代用特性(品質特性)に変換し、完成品の設計品質を定め、これを各機能部品の品質、さらに個々の部品の品質や工程の要素に至るまで、これらの間の関係を系統的に展開していくこと」[1]としている。これを品質表によって技術の言葉としての品質特性に変換して設計品質を定め、その設計の意図を製造に伝達する品質保証の具体的手法である。「品質の連鎖」からとらえた品質システムといえる。
ここでは上記の通信建設事例[6]を用いて説明する。建設施工現場から原始データ変換シートによって収集した要求品質を抽出し、グループピングして、表1(表左欄)に示す要求品質展開表を作成した。これから重要度を求め、他社との比較を行って企画品質を定めることが出来る。
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▲表1(クリックで拡大) |
かつては、一般製品の品質は技術志向の立場で、通常は品質特性で品質設計が行われてきたが、顧客志向の立場に立って企画品質を設定することが大切である。しかし要求品質を全て品質特性に置き換えるのは困難であるので、「品質を評価する尺度となりうる要素」として「品質要素」を定める[1-2]
。品質要素により全ての顧客要求品質を抜け落ち無く把握できることがQFDの多くの実践例で明らかにされてきた。しかしそれは抽象的な表現なので、必要により計測方法を研究し、計測可能になったとき、「品質を評価する尺度」である品質特性とするのである。品質要素は顧客の要求言語情報を抽象化したもので、特性値以前の品質そのものを表すものとして位置づけられる。
要求品質毎に品質要素を抽出し、グルーピングして表1上欄の品質要素展開表がえられる。さらに要求品質展開表と品質要素展開表とのマトリックスすなわち品質表(House of Quality と呼ばれている)により設計品質を定めることができる。
3.業務の品質
検査では品質は確保できず「工程で品質を作りこめ」という考え方は米国からのものであるが、1970年代までは検査偏重の会社が多く、むしろ「結果でプロセスを管理する」という思想は日本で徹底された。そしてアウトプットの製品品質の確保を目指した両面の努力がなされてきた。プロセスの方が重視されたのが旧版のISO9000であり、2000版で両面が強調されるようになった。
Total Quality Management (TQM)では、アウトプットのみならずプロセスも重視され、「業務の品質」という言葉が使われてきたが、明確にされていない(類似語にoperation ,jobあるいは workという言葉があるが、ここではwork qualityを用いる) 。本論文では、QFDの構造がQDと狭義のQFDから構成されることをベースに、「業務の品質」の概念を明らかにしようとするものである。
石原勝吉はVEで用いられていた製品の機能を拡張し「業務機能展開」の考えを示した[10]。これから水野による狭義の品質機能展開が生まれたのである。業務には目的が存在し、「良い業務」とは業務目的に如何に適合しているかで判断される。従来から品質保証を行うために品質保証活動一覧表が用いられていたが[11]、大藤等は業務機能を分析し、「業務の目的を追求」して保証項目を求める方法を示している[12]。
われわれも1998年の段階ではこの保証項目を用いていた[7]。当時からこの保証項目こそが業務の良否を示す「業務の品質」そのものを表すものではないかという認識をもち、服部・早崎と討論を行っていた。その後の稲吉・藤本との共同研究のサービス業や医療での多くの事例研究から次の結論を得たのである。製品(アウトプット)の品質要素の定義である「品質を評価する尺度となりうる要素」に合わせ、新たに「業務の品質を評価する尺度となりうる要素」として「業務品質要素」を定義した
[13]。昨年はこの延長で「経営の品質」を論じている[14]。今回は品質管理における最も基本問題としての「製造の品質」と「業務の品質」について再度論じるものである。
4.業務品質の事例
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▲表2(クリックで拡大) |
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▲表3(クリックで拡大) |
大藤・小野は「名詞」+「動詞」により業務機能を抽出するとき、名詞である「業務の対象」と動詞である「業務の作用」の組み合わせで業務機能展開が容易に行えることを示した[12]。例えば業務の対象としての「企画調査」→「ニーズ」→「顧客情報」等と、業務の作用としての「把握する」→「収集する」、「確認する」の組み合わせから、「ニーズを把握する」、「顧客情報を収集する」等の業務機能が取り出せることになる。「品質標準を設定する」等が重要なのは当然であるが、多くの業務の中から「設計資料を調査する」、「仕様書を調査する」等が重点項目として抽出される。すなわち「直接的に製品の個々の品質要素を押さえ込むための重点業務の抽出」が可能なとなる。この方法は有効であり活用されることをお勧めしたい。このようにして表2左欄の業務機能展開表が作成された。
業務の良否は、その業務目的が達成できるかにかかっている。企画調査における「ニーズを把握する」の目的は「顧客情報の収集」であり、その上位目的は「情報伝達の確実性」である。この業務目的追求の過程の一部を表3に示す。
この目的追求の結果えられるものは「業務品質を評価する尺度となりうるもの」すなわち「業務品質要素」である。その具体的な尺度が「業務品質特性」であるが、品質特性は計測技術を伴うので、先ず抽象化された表現の業務品質要素として把握することが大切である。従来「品質保証項目」と呼んでいたものを「業務品質要素」とし、これこそが真の「業務の品質」を表すとみなす。以上をKJ法的にまとめて表2上欄の業務品質要素展開表が得られる。
業務機能展開表と業務品質展開表のマトリックスから重要度を変換して重要な業務品質要素を抽出することができる。重要と指定された業務品質要素については、評価特性を定めて重要業務の評価を行うことが望ましい。
5.QFDによるTQM品質システムモデル
製品の品質と業務に品質を共に確保するためのQFDよるISO9000ベースとしたTQM品質システムモデルについては既に6th
ICITで図2に示す次のステップを報告した[15]。
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▲図2(クリックで拡大) |
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▲表4(クリックで拡大) |
Step 1. ISO 9000 の認証取得
Step.2 狭義のQFDの適用による業務機能の見直し
Step.3 QD(Quality Deployment:品質展開 )の適用による、out put の品質を直接確保しうる品質システムの構築
Step.4 新製品の立ち上げ以前に顧客の満足する品質を確保するシステムの構築
Step.5 技術・信頼性・コストを含めた総合的QFDシステムの構築
第1ステップはISO 9000 の認証取得である。先ずProf. Hoが推奨するように、5Sから出発することが妥当であろう。そして先ずISOの要求事項を満たすことに注力する。第2ステップとして良いシステムの構築には業務の見直しが大切である。業務機能展を行い、重要な業務品質要素を抽出し、必要に応じて業務の評価項目を明らかにしておくとよい(図2の①)。業務機能展開表とISO9000要求事項とのマトリックスをとり、前者の重要度を変換して後者の重要度を定め、両者を含めて重点業務機能を定める。
第3ステップとして、真の品質保証とは企業からout put される製品品質が保証されていなければならない。要求品質の把握から始まるQDを行い、顧客の満足をうる企画品質、設計品質設定する(図2の③)。製品の品質要素と業務の品質要素を加えた両品質要素展開表(表4上欄)とISO9000要求事項(図2の④)および業務機能展開表⑤とのマトリックスにより重要業務機能を見直す。さらにQDではそれを確保するための部品・工程の要素までQAの要素を明らかにすることが大切である。
第4ステップとしては、システムのアップのため、新製品の立ち上げ以前に顧客の満足する品質を確保する本来のQFDを実行する段階である。これはISO9000の新版に対応しうる段階となる新製品の立ち上げ以前に顧客満足を確保する品質展開システムである。
顧客の潜在・顕在の要求の把握による要求品質品質展開表から企画品質を設定し、品質要素(品質特性)に変換し、設計品質を定める。この設計品質を確保するための品質保証上の重点を各機能部品の品質、さらに個々の部品の品質や工程の要素に至るまで、これらの間の関係を重点的・系統的に展開して、製造現場に指示し、生産立ち上げ前に品質保証を行ってしまう。
第5のステップは、技術・信頼性・コストを含めた総合的QFDシステムを示し、新版のISOを越えていくTQM品質システムそのものとなる。
6.あとがき
製品の品質を確保するためには業務の品質が大切であるといわれている。しかし後者の本質は明らかにされていない。品質展開(Quality
Deployment)は製品自体の「品質のネットワーク」であり、狭義のQFD(Quality
Function Deployment)はその品質を形成する「業務品質のネットワーク」である。1994年以前のISO9000は後者の範疇に入るものであるが、十分の認識がなされていない。
本レポートでは、今回はもっと一般的にProduct Quality とWork Quality の基本的概念を明らかにしようとした。ここでは通信建設事例[4]を用いて説明し、6th-
ICITで示したTQM Quality systemとしての活用について述べた。
REFERENCE
1.Mizuno,S.,Akao,Y.(1994):”QFD-The Customer- Driven Approach to Quality Planning and Deployment” Asian Productivity Organization; ibid(1978): “original”,JUSE(Japanese)
2.Akao,Y.(1990): “Quality Function Deployment-Integration Customer Requirements into Product Design”,Productivity; ibid(1988): “original”,JSA (Japanese)
3.Akao,Y.,Mazur,G.H.(2003):”The Leading edge in QFD:past,present and future” International Journal of Quality & Reliability Management Vol.20,No.1,2003,p.20-35.
4. Y.Akao(1990), “Introduction to Quality Function Deployment”,JUSE(in Japanese)
5. A..Feigenbaum(1961) “Total Quality Control”,McGRAW-HILL BOOK Co.
6.Y.Akao, Y.Hattori(1998) “Quality System Based on ISO9000 Combined with QFD”, Proceedings of WISC 98 incorporating 4th International Symposium on Quality Function Deployment (ISQFD), Sydney, Australia. 1998.8.pp.1-8.
7.Y.Akao,G.H.Mazur(1998)”Using QFD to Assure QS-9000 Compliance” 4thISQFD, Sydney, Australia. 1998.8. pp.60-61.
8.Y. Akao, T. Hayazaki(1998) “Environmental Management System on ISO14000 Combined with QFD”, Proceedings of the 10th Symposium on QFD(QFD institute in USA), Novi, Michigan. pp.425-436.
9.Y,Akao(1999) “ISO9000 and 14000 Systems supported by QFD ”, Proceedings of 4thInternational Conference on ISO9000 and TQM (ICIT),Hong Kong ,1999,4.7-3,pp.325-331.
10.Ishihara,K.(1984): “Practice of promotion of Company Wide Quality Control”,JUSE (in Japanese)
11. Totota Automobile Company LTD (1965):”Speech on the Deming Application Prize”(in Japanese)
12. Ohfuji,T.,Ono,M.,Nagai,K.(1997):”QFD Guidebook”, JSA(in Japanese)
13. Y. Akao, K. Inayoshi.(1999) “A Study of Service and Operational Quality-An Application of QFD in Library Services-” Proceedings of 5thISQFD, Brazil. 1999.8.25. pp.200-211.
14.Y.Akao(2003) “Management Quality from a Standpiont of QFD”,Proceedings of (9-ICIT),
Montreal,Canada,2003,4,23-25.
15.Y,Akao(2001) “TQM Quality System by QFD Baesd on ISO 9000” (keynote),ICIT Paisley Scotland,UK.2001.4.17-19,pp.137-146
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